血漿分画製剤のいろいろ

血液製剤・血漿分画製剤・血液製剤が必要となる病気の種類などを学ぶことができます。

血漿分画製剤のいろいろ

免疫グロブリン製剤

免疫グロブリン製剤の適応

感染症

① 無または低ガンマグロブリン血症

免疫に生まれつきの異常があり、感染症を起こしやすくなる病気を「原発性免疫不全症」といいます。「原発性免疫不全症」のうち、体内で免疫グロブリンが全く作られない場合を「無ガンマグロブリン血症」と呼び、少ししか作られない場合を「低ガンマグロブリン血症」と呼びます。

無または低ガンマグロブリン血症の患者さんは、胎盤を通してお母さんから貰った抗体が少なくなる生後6カ月を過ぎる頃から、繰り返し細菌などの感染症にかかり易くなります。

このような患者さんには、感染症を予防するために、免疫グロブリン製剤を定期的に投与することが不可欠です。免疫グロブリン製剤の定期的な投与により、重篤な感染症を引き起こすことは少なくなっています。

免疫グロブリンの防御壁
② 選択的IgGサブクラス欠損症
  注:感染症としての疾患名ではない。

【効能・効果】

人免疫グロブリンはIgG、IgM、IgE、IgA、IgDの5つのクラスに分類されます。IgGには4つのサブクラスが存在し、その割合はIgG1:65~70%、IgG2:20~30%、IgG3:4~8%、IgG4:2~6%です。選択的IgGサブクラス欠損症とは、そのうち1つないし、いくつかのサブクラスの欠損ならびに低下を示し、感染症を繰り返す病気です。IgAの低値を伴うものもあります。 乳児において母体から移行したIgGは、生後4~6か月頃に最低値となりますが、その後、徐々に自身で産生できるようになり増加し、4~6歳で成人のほぼ2/3に達することが知られています。それぞれのサブクラスも同様ですが、特にIgG2とIgG4は遅れて増加する傾向にあります。IgG2には、莢膜(きょうまく)*1 に対する抗体が含まれており、IgG2が産生されなかったり、産生が遅れたりする場合、莢膜をもつ肺炎球菌、インフルエンザ菌等による感染症(中耳炎等)を繰り返しやすくなります。

【図-1:IgG2の莢膜】

【図-1:IgG2の莢膜】


【症状】

易感染性(いかんせんせい)*2 を示しますが、なかには無症状の場合もあります。IgG2欠損症では肺炎球菌、インフルエンザ菌等による中耳炎や気管支炎、肺炎を繰り返すことがあります。

【検査】

血液中のIgGサブクラスをネフェロメトリー法(微粒子が浮遊する懸濁液に光を当て濁り度合を測定する)で測定します(IgG2, IgG4検査は保険収載) 。

【治療】

感染症に対する抗菌薬の治療が中心となりますが、血液中のIgG2の値が低く、感染症(中耳炎等)を繰り返す場合は、免疫グロブリン補充療法を行います。

【免疫グロブリン補充療法】

初回は体重1kgあたり300mg(6mL)、2回目以降は体重1kgあたり200mg(4mL)を4週間間隔で6回を目安に点滴静脈注射します。

【図-2:免疫グロブリン製剤の使い方】

【図-2:免疫グロブリン製剤の使い方】


*1莢膜(きょうまく、capsule):一部の細菌がもつ細胞壁の外側にある膜で、多糖類から構成されていることから莢膜多糖体と呼ばれます。莢膜は白血球、マクロファージなどからの貪食から逃れやすくなるため、また菌体表面への補体の結合を抑制することで、補体による殺菌を回避することが知られています。

*2易感染性(いかんせんせい):免疫機能の低下などにより抵抗力が弱まり、細菌、ウイルスなどによる感染症に罹りやすくなっている状態です。


その他、用語については「血漿分画製剤のいろいろ」の「免疫グロブリン製剤」をご参照下さい。

③ 重症感染症〔じゅうしょうかんせんしょう〕

細菌感染症にかかった場合、通常は抗生物質の投与により治療します。しかし、白血病やがんで治療を受けている場合や大きな手術を受けた場合などでは、免疫力が低下していますので、感染症にかかりやすく重症化しやすくなるといわれています。そのような場合、抗生物質だけでは症状が改善しないことがあり、免疫グロブリン製剤が一緒に投与されることがあります。

なお、重症感染症では、抗生物質だけよりも抗生物質と免疫グロブリン製剤を併用したほうが治療の効果が高いことが、臨床試験で認められています。

重症感染症:抗生物質と免疫グロブリンの併用効果
④ ウイルス感染症

ウイルスが体内に侵入するとターゲットとする細胞に結合し、その細胞の中に侵入したあと増殖し、感染がひろがります。免疫グロブリン製剤には、各種のウイルスに対する抗体が幅広く含まれています。免疫グロブリンGは、私たちの体内でウイルスに結合する事(ウイルスの中和作用)によって、ウイルスが細胞と結合し、細胞内に侵入し増殖する事を妨害し、ウイルス感染を防ぐ効果があります。

免疫グロブリン製剤の中で筋注用製剤は、麻疹(はしか)、A型肝炎などの予防と治療に使用されています。

<大阪府立成人病センター顧問 正岡 徹先生(2008年5月監修)>

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